歌舞伎から生まれた言葉③

江戸時代から続く日本の伝統芸能の一つに歌舞伎があります。私たちは、そこから生まれた言葉を現在でも日常的に使っています。歌舞伎に由来する言葉について紹介する第3回目は、もとの言葉にはなじみがないかもしれませんが、日常でよく耳にする言葉について見ていきます。

① 今回、私は黒子に徹するつもりだ。

② 私は思わず『これは誰の差し金だ!』と叫んだ

①「黒子」(くろこ)とは舞台上で演技する役者の手助けをする人のことで、その舞台に登場していない役者が黒い衣装を身に付けて担当します。

正しくは「黒衣」と書いて「くろご」と読みます。歌舞伎での「黒」は「無」を意味する約束事になっているので、そこから、表には出ないで物事を処理したり縁の下の力持ちになったりすることを意味するようになりました。

これと似た意味を持つ言葉に「裏方」があります。本来、裏方とは衣装や結髪、照明、大道具や小道具など、舞台裏で働く専門的な職業の人を指し、役者ではありません。

しかし最近では、「黒子に徹する」と「裏方に徹する」を同じような意味で用いることが多くなりました。

②「差し金」は歌舞伎の小道具の一つで、作り物のチョウや小鳥などを操るときに使う黒い棒のことです。細い竹竿の先に針金につながれたチョウなどがついていて、黒子が物陰から動かすことで飛んでいるように見せます。

その様子から、裏から糸を引く、入れ智恵をするなどの意味に用いられています。この「差し金」と似た言葉に「黒幕」があります。黒幕は夜の場面を表したり場面の転換に用いる黒い幕のことですが、そこから表には出ずに陰で操る人のことを指すようになりました。